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読書感想 終わりなき夜に少女は | クリス・ウィタカー

2024年07月14日

ノアはいつも彼の家の庭のはずれにひそんで合図を待ち、パーヴがまだ生きているのを確認してから家に帰った。明かりがパチリとついて消えるのを。

ノアは手を伸ばしてパーヴの肩をがっちりとつかんだ。「おれたちゃ勇猛」

「おれたちゃ果敢」

「じゃ、あとでな」ノアは言った。

「我ら闇より天を見る」で話題をかっさらったクリス・ウィタカーの第二弾。書店をぶらついていたらが置いてあるのが目に入ったので購入をした。

ちなみに前作のことはブログにも書いた。

無法者のヒロイン 「われら闇より天を見る」

あらすじ

アメリカ、アラバマ州の小さな町グレイスでかつて起こった連続少女誘拐事件は未だ犯人が捕まらず捜査は暗誦に乗り上げていた。

そして1995年の夜、また一人の少女が失踪した。彼女の名前はサマー・ライアン。警察は単なる家出だと判断したが、サマーの双子の妹のレインはそうは思わなかった。レインは優等生のサマーとは対照的な不良少女。ノア、パーヴと共に姉のサマーの捜索を始めるが…。

感想、レビュー

謎めいた少女の失踪とその捜索というミステリとしては王道の展開だろうか。

本作は主に三つの視点で話が進む。

一つ目は失踪したサマーの妹レイン。恐らくスクールカースト下位のノア、パーヴとタッグを組み、ドタバタを演じながらも捜索を進める姿が面白い。レインは不良少女で大人の世界を知っている、という風なので、立場的に上な雰囲気を感じるが、徐々に二人に心を開いていく。ここにジュブナイル的な味わいがある。

二つ目は警察署長のブラックの捜索。同じ物語を共有しながら職業人の葛藤、苦悩に焦点が当てられている。

三つ目は失踪したサマー自身の話。ここだけ時間軸がすこし異なっている。レインとブラックは失踪してからの捜索という時間軸。一方でサマーの視点は失踪する前の段階から一人称で、失踪に至るまでに何を考えていたのか、どんなことをやっていたのか、ということが語られる。

個人的にこのサマーの話が一番読み所が多いと思った。ネタバレにならない範囲で書くと、因習の蔓延る町で唯一と言っていいほど上流の雰囲気を漂わせる彼女がなぜこんなことをしてしまったのか、なぜここまできてしまったのか…とハラハラせずにはいられない。

三つの視点にそれぞれに味わいがあって、飽きない構成となっている。一方で、この手の視点が分かれるミステリは終盤の方で話が収束していってカタルシスがあって…というのが勝ちのパターンのような気がするが、少し話にまとまりがなかったな、という印象もあった。ここの溜飲を下げたかったんだけど、、というところが回収されなかったというか。

全体的には前作の我ら闇より天を見るの方が完成度高かったかも?みたいなことを考えながら解説を読んでいると、邦訳されたのは本作の方が後だったが、原著ベースではこちらが先に出版されていたらしい。ちょっと納得。

我ら闇より天を見るというと無法者のダッチェスのキャラが立ちまくってた小説だった。そういわれてみると本作のレインもいわゆる不良少女で汚い言葉はそこまで多くないが、アウトローな感じ。ダッチェスはレインを発展させる形で描かれたのかも?みたいに考えると当たらずとも遠からずという感じがする。

いろいろと書いたが全体的にはかなりの良作という評価。

レインの章ではショートコントのようなドタバタ劇でくすりと笑える場面もある。ブラックの章は田舎の閉塞的で重い雰囲気、ただしそこで懸命に生きる人々をうまく描写できている。しかし、なんといっても、サマーの章のクオリティが高い。本質的にはミステリの本作であるが、ここだけ概念的な話が多く文学的な雰囲気を漂わせている。かついちばん驚きが多いのがサマーの章でもある。ぜひ手に取ってほしい。ではでは。