2024年02月04日
幸運な一握りの天才でなければ、イノベーションを生み出すことはできない。少なくとも、私たちはそう聞かされてきた。
だが、ここで声を大にして言いたい。そうした定説は間違っている。魔法のカギなどというものはない。創造性のブラックボックスは誰でも開くことができる―たんに人間の脳の仕組みと必要な手順、そしてThink Biggerにインスピレーションを与えたイノベーターたちについて、単純なことをいくつか理解するだけでいいのだ。
シーナ・アイエンガーさんの新著、「Think Bigger」を読み終えたのでその感想を書く。コロンビア大学ビジネススクールの教授であり、心理学者。高校生くらいの頃に視力を失った全盲の学者、ということもよく知られている。自分が学生の頃に同教授の「選択の科学」を読んで、強い衝撃を受けたことは記憶に残っていた。
『選択の科学』では、とくに服装や食べもの、果ては結婚相手まで自分で決めることが許されない、厳格なシーク教徒の移民の過程で育つも、アメリカの公立学校で「選ぶ」ことの力を教えられたという、アイエンガー教授の生い立ちが語られ、脚光を浴びた。何よりも「今の自分」から「なりたい自分」になるための唯一の手段が「選択」である、という力強いメッセージが、人々の心を捉えた。
訳者:櫻井祐子さん あとがきより
そんな選択のパワーにインスピレーションを受けた教授が、人間がどのように選択を行い、生活や幸福にどのように影響を与えるのかを、多くの研究結果と実例を通じて解き明かしたのが『選択の科学』だった。特に選択のパラドックスについての話は印象に残っている。それは選択肢が増えると人々が決断を下すのが難しくなり、結果的に満足度が低下する可能性があるというものだ。この考えは、ジャムの実験として知られる研究に基づいている。消費者に提供される選択肢の数が多いほど、実際には何も選ばない人の割合が高くなることを示した。
そんなシーナ・アイエンガーさんがコロンビア大学ビジネススクールで人気講義「THINK BIGGER」を開講中。その講義が書籍化されたのが本書である。以下、感想をまとめていく。
なんとなくアイデア発想法的な本かな?と思って読み始めてみると導入がめちゃくちゃ良い。シーナ・アイエンガー教授が畏敬の念を覚えるニューヨークの象徴。謎めいた長身の女性、美しいと一言で片づけるにはあまりにも惜しい。身長46メートル、重さ2040トンの像、「自由の女神」の話から始まる。自由の女神は様々な人々に霊感を与えてきたが、それがどうやって作られたのかはあまり語られることがなかったという。話は自由の女神を産み出した、フランスの彫刻家、バルトルディの生涯にフォーカスされていく。丁寧に自由の女神が生まれた歴史について紐解いていく。エジプトの巨像、ジュール・ルフェーブルの絵画「真実」など、自由の女神のアイデアにはいくつかの「元ネタ」を組み合わせて作られたということが明らかになる。
そう、Think Biggerする、つまり「最高の発想」を産むには、既存の成功した要素の組み合わせが重要だ、という主張がされている。
かなりわくわくした。目からうろこが落ちる思いさえした。最高の発想は天才的な閃きで産まれるとばかり思っていた。
しかし、あの「自由の女神」でさえ、既存の元ネタを組み合わせて作られたらしい。自分も良い要素を組み合わせれば「最高の発想」を産むことができるかもしれない。そんな前向きな気持ちにさせる導入エピソードだった。
その後も芸術家のピカソからAmazonの創業者ジェフ・ベゾス、ニュートン、などなど様々な分野の成功事例が語られる。いずれも、天才的な閃きが彼らを成功者にしたのではなく、既存の要素の組み合わせが最高の発想を産み出した、という切り口で主張している。そのエピソードを読んでいるだけでも充分に読み物として面白い。そういわれてみると元ネタはこれ!みたいな話は大抵面白い。
この主張は確かにそうだなーと思った。世の中のこれは新しい!と思っているサービスも何らかの元ネタは絶対に思いつくような気がする。全ての事象は何らかの影響を受けている。漫画などのポップカルチャー、ビジネス、webサービス、全てのジャンルで言える。
本書『THINK BIGGER』は、それに加えて、ある程度の再現可能な手法として、思考方法をフレームワーク化している点が素晴らしい。
超ざっくりというと、自分が解決したい課題を書き出して、その課題を解決しているような先行事例を探して組み合わせろ、という感じ。実際に「持ち運べるマウスを発明する」という題材でTHINK BIGGERの手法を詳細にトレースすることができる。確かにこれは再現可能だ、と思う。詳細は本書を読んでほしい。
この"THINK BIGGER"という思考フレームワークはこれからかなりメジャーになっていくのではないかと思う。
本書は結構読み物寄りだったという気がするが、THINK BIGGERをエクササイズするために特化した本があっても面白いと思った。
よくある実践編みたいな感じ。ではでは。