2023年02月19日
ぼくはペンを取った。「消去法で行こうよ」ぼくは言った。世界一有名な架空の探偵シャーロック・ホームズによると、すべてを消去して残ったものは、どんなにありえそうもないことであっても、まちがいなく真実だ。すべてを消去して残るのが、ぼくがいちばん気に入っている仮説ならいいのにと思った。
ロンドン・アイの謎を読んだ
主人公は12歳のテッド。テッドは"症候群"を抱えていて、人の気持ちを理解するのは苦手だが、反面、事実や物事の仕組みについて考えるのは得意だ。特に興味を寄せている気象学についての知識は専門家並みだ。
さて、そんなテッドの家にいとこのサリムとグローおばさんが数日間のあいだ、居候することになった。サリムの希望で一家は、巨大な観覧車、ロンドン・アイに乗りに出かけることに。
テッドと姉のカット、サリムはチケット売り場の長い行列に並んでいる際に、見知らぬ男に声をかけられ、チケットを一枚譲ってもらう。テッドとカットは下で待っていることにして、サリムだけが他の20人ほどの乗客と一緒に観覧車のカプセルに乗り込んだ。
しかし、一周して下りてきた乗客の中にサリムの姿はなかった。サリムは閉ざされた空間から、どうやって、なぜ消えてしまったのか?謎を解決するためにテッドとカットは行動をする—。
テッドとカットとサリム、3人のティーンエイジャーの成長物語として、よくできている。
特にテッドとカットの関係については注目をせざるを得なかった。
"症候群"を抱えるテッドに対してカットは普段はきつく当たっている場面がよく描写されている。
しかし、サリムの失踪という困難に懸命に立ち向かうことで、二人の心が段々と通じ合うようになる。
この手の流れは王道なのかもしれないが、読んでいて心が温まる。
そのほか、謎の解明がメインプロットであるものの、思春期特有の緊張感のあるシーンも挿入され、読みどころが多い。
カットと母の微妙なわだかまりとついに決壊してしまうシーン。徐々に明るみになるサリム家の複雑な家庭環境。サリムの学校の人種差別問題など。
特に終盤のサリムのエピソードは思わず涙を流してしまった。
最終的に問題を解決することで、こんがらがった糸がほどけるように、緊張が融和されていく。そのため、読後はとてもすがすがしい気持ちになる。
本質的にはミステリでありながら、ジュブナイル小説として非常に完成度が高い。
ジュブナイル的な側面が秀逸な本作だが、ミステリとしてもなかなか本格的。
特に感動をしたのは冒頭で引用したサリムの失踪の仮説を立てる場面。
失踪が明るみになった際、大人たちは「テッドとカットがサリムが降りてきたのに見逃した」と決めつけていた。
テッドは失踪した仮説を立てる際に、大人たちの指摘も含めつつ、あらゆる可能性を考える。
現実的なものから、突拍子もないものも全て書き出す。
ロジカルシンキングで有名なフレームワークでMECE
というものがある。
MECE(ミーシーまたはミッシー)とは、日本語にすると「モレなく、ダブりなく」という意味です。 物事を考えるときに、必要な要素を網羅しながらも、それらが重複しないようにする考え方を指します。 ロジカルシンキング(論理的思考)で必要となる基本概念です。
テッドの立てる仮説はまさにMECE
だった。
8つあるうちのいくつかを抜粋する。
1 サリムがカプセルのなかに(たぶん座席の下に)かくれ、そのまま三週かそれ以上したあと、ぼくたちがあきらめたころに出てきた。
2 ぼくの腕時計がおかしくなっていた。サリムはぼくたちが迎えにいく前にカプセルから出てきた。
3 サリムがカプセルから出てきたとき、ぼくたちが何かの理由で見落とした。
5 サリムは自然発火した。
7 サリムはタイムワープした。別の時代か、ひょっとしたら異世界に閉じこめられてるのかもしれない。
ミステリなので、最終的には問題は解決される。
決めつけをせず、事実をあるがままに見て、可能性を書き出す。
そして、検証を行うことで物事を解決に導いていく。当たり前のようでいてこれが難しい。テッドの思考法から学ぶべきことは多いと感じる。
真相にたどり着くための答えはすべて書かれているタイプの小説。これから読む人がいたらぜひ挑戦をしてみてほしい。
ではでは。