QLITRE DIALY

壮絶! 『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』を読んで。

2023年08月28日

基本的に知らない人間が苦手な私は竹田の誘いに辟易していたが、昼間オフィスで顔を合わせることのない同期たちと、ただひたすら飲んで騒ぐ金曜の深夜だけが、仕事の海で溺れそうになる私の唯一の息抜きの時間だった。稼いだ残業代は酒に変わり、貯金は一向に貯まることはなかった。

メン獄さんの書いた『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』を読んだ。

きっかけとしてはXのタイムラインで流れた以下のツイートだった。

200時間の残業を10年間。恐らく月間の残業時間のことを言っているのだろう、意味もなく掛け算をしてみる。

1年で12カ月で2,400時間。これを10年続けると、24,000時間である。途方もない時間だと思った。

メン獄さんのポストを追っていると、本書の紹介がされていた。

途方もない量の労働を経て書かれた本、これは面白いに違いない。そう直感が告げていた。ポストを見たあとに、すぐに購入をした。

一読した感想

2009年から12年間、大手外資コンサルティング会社に勤めたメン獄さんのサバイバル術をまとめた、という本。

時系列に沿って、アナリスト編から始まり、ジュニアコンサルタント、シニアコンサルタント・マネージャーとステップアップしながら、それぞれの立場におけるサバイバル手法をまとめた、というのがメインプロットだろうか。

なんていうか、本の分量はそこまで多くないが、この人の書く言葉はとにかく密度が濃い。壮絶!というのが一読した感想だ。

ありきたりなことを綺麗にまとめているだけではなくて、自分の体験について書いていることが伝わる。そこに凄味がある。

以下、面白いと思った点を簡単にまとめる。

「ロジ力」を身につける

例えば「ロジ力」を身につけるなどの箇所はとても納得をしてしまった。「ロジ力」とはロジスティクスのことで、コンサルタントの文脈では、「仕事に必要なものが、必要な量だけ遅滞なく、当たり前に存在する状態」を作っておくことを指すらしい。いわゆる段取りのことかと思うのだが、この段取りの内容が細かくて濃い。「仕事は段取りが大事です」とか、「仕事1割段取り9割です!」なんて根拠がよくわからない数字を持ち出して終わらせることもできたのかもしれない。しかし、メン獄さんの書く段取りは圧倒的に詳細度が高い。

例えばZoom会議がはじまる瞬間に資料の投影にまごついてしまい、10分ほど浪費してしまった会議を経験したことはないだろうか。あるいは、せっかく作った資料が、いざクライアント先の会議室に行ったら、投影するスクリーンが存在せず、ノートパソコンの小さな画面をみんなで覗き込むような事態に陥ったことはないだろうか。一度そうなってしまうと、その後、どんなに言葉を尽くして説明をしたところで、何となくイケてない印象は拭えないだろう。

意外と見落としがちなポイントが、会議室の椅子だ。出席者と比べて十分な数が確保できているか事前にチェックしておこう。足りない場合は他の場所から借りる段取りをつけておこう。10名以上が出席する会議の場合、そもそもビル内でそのような場所は限られるので、事前に予約をしておくか、複数会場からリモートでつなぐ等の対応が必要になるケースもある。会議日程が決まった段階ですぐに場所を押さえよう。

資料の投影方法から会議室の椅子に至るまで会議の準備だけで7ページほど語られる。

ここまで詳細に会議の準備について書かれた本は今までに読んだことがない。

体験記としての面白さ

コンサルティング会社に勤めている人であればそのまま手引きとして使えそうな詳細度を持っていることが特徴である。

私はコンサルではないが、Excelやパワーポイントなどのちょっとしたテクニックについても触れられているので、そうでなくても、ためになる箇所が多い本だと思った。一方で単純な体験記として読んでも面白い。冒頭に引用したような労働のやりきれない思いを全て酒にぶつけるような描写が散見され、シンパシーを感じる場面が多い。というか、ことあるごとに飲んでいる。商社マンが酒を飲むことは有名だが、コンサル業もこんなに酒を飲むのか、と驚いた。その他にも、「次マウスを使っている所を見たら、手を切り落とす」と言い放つとんでも上司や、パワー系クライアントに対抗するためにジム通いを始めて、ムキムキになっていくコンサルティングチームなど、とんでもエピソードが目白押しだ。エクストリームな話はただ読んでいるだけで、面白い。

おわりに

長々と書いてきたが、多方面で刺激を受ける良本だった。私もコンサルの人と一緒に仕事をしたことがあって、何となくこの人たちは頭の構造がそもそも違うんじゃないか、という気持ちを持っていた。しかし、メン獄さんの本を読むと、特別なことはしていないのかもな、という風に考えが変わってきた。上のロジ力で書いた通り、当たり前のことをプロ意識をもって当たり前のようにやる。これをひたすら続けて、昇華させてゆくと密度の高い仕事になっていくのではないだろうか、というように思う。もちろん、普通の人は月200時間も残業をできないし、ロジ力一つとっても本書で書かれている通りに徹底してやるのは簡単なようで難しい。そういう意味では特別かもしれないが、頭の構造がそもそも違う、ということはなさそう。

ひたすら働いている中で自費で学習をしている点にも感銘を受ける。そういえば、そういう気持ちを忘れてたかもな、ちょっと何か新しいことを始めようかな、そんな前向きな気持ちも生まれる一冊であった。おすすめ。