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SF小説を読む 『三体 X 観想之宙』

2022年09月18日

『三体』シリーズの公式スピンオフ、『三体 観想之宙』を読み終えたので、その感想。

本編の感想については下記にまとめてある。

SF小説を読む 『三体』

SF小説を読む 『三体 Ⅱ 黒暗森林』

SF小説を読む 『三体 Ⅲ 死神永生』

観想之宙について

冒頭で「公式スピンオフ」という表現を使ったとおり、この『観想之宙』は『三体』シリーズの作者、劉慈欣が書いたものではない。

『三体』の熱狂的ファンの一人であった宝樹が第三部の『死神永生』を読み終えた直後に、深い喪失感を覚え、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆した、というものだ。

ネットに投稿したところ大きな反響を呼び、劉慈欣の公認を得て、『三体』の版元から発行されるに至った。

あらすじ

太陽系が潰滅したのちに青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友、艾(アイ)AAと二人ぼっちになった雲天明は自らの過去を語りだす。「ラダー・プロジェクト」によって脳を三体艦隊に囚われていた間に何があったのか?

雲天明の語りを切り口に『三体 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明らかになってくる。

艾(アイ)AAの秘められた出自、智子との意外な形での再会。太陽系を滅ぼした"歌い手"の謎。

次第に雲天明は宇宙の原始時代からの運命に巻き込まれていく…

喪失感について

宝樹は『三体』を読み終えた後の喪失感がきっかけで、この『観想之宙』を書いたという。

自分の場合は喪失感についてはどうだっただろうか。

『三体』はシリーズを通して、主人公が存在しているが、どちらかというと登場人物それぞれにスポットライトを当てる群像劇のような構成。

悠久の時を超えて数々の登場人物の紡ぎ出していくドラマが面白い、といった類のものだ。

もやっとするような終わり方ではなかったので、読後に「物語の続きが気になる」というような気持ちはなかった。ただし、物語がテンポよく進んでいるが故か、登場人物それぞれに対して、もう少し語って欲しい、という気持ち、これは確実にあった。回収されていないと感じる伏線が大量にある、と言い換えてもいい。気になるエピソードはあるが、物語が完結してしまったので、語られる時は来ない、それを喪失感と呼ぶのかもしれない。

この『観想之宙』は非公式であるものの、読者の喪失感を埋めるように宝樹が解釈した形での伏線回収が行われる。一種の謎解きと言っていいかもしれない。

ついに明かされることがなかった三体人の正体、雲天明が程心と再会するまでの空白の時間について、太陽系を滅ぼした歌い手の謎、などなど。誰もが読後に気になっていた場面を納得できる形で物語を紡いでいる。

全体的な感想

ストーリーはなぞっているものの『三体』シリーズとは全くの別物と考えて臨んだ方がいいだろう。

スピンオフという性質上どうしてもそうなるのだろうが、『三体』シリーズに比べると圧倒的に緊張感が欠けている。展開は壮大であるものの、ライトに書かれたノベル、という印象を受けるのは否めない。

また、この伏線を回収する、という点にもある種の功罪があると思っていて、納得感を与える一方で、謎が持つ神秘性が損なわれてしまう、という側面がある。特に地球世界の脅威となった三体人や歌い手などは正体が語られないことで、読者に緊張を与える存在だった。しかし、『観想之宙』で語られている最中はどことなく矮小に感じられる。そうした描写に少し反発している自分もいた。

総合的に気になる点は多いのだけど、それでも『三体』シリーズの謎を、つじつまが合う形で語っている点については絶賛ができる。

かなりの愛がなければ書けない作品であることは事実だろう。劉慈欣も公認している、ということで、まさに本人が考えていた通りに伏線回収が行われた場面も多かったのではないだろうか。

あくまでスピンオフということを念頭に置いて、軽い読み物として臨む分には超おススメ。

ただ、性質上『三体』シリーズを読み終えたあとでないと楽しめないという点は付け加えておく。

おわりに

個人的には史強(シー・チアン、通称ダーシー)のスピンオフなんかあったら絶対に読みたい。ではでは。