QLITRE DIALY

SF小説を読む 『スノウ・クラッシュ』

2022年07月26日

今日はSF小説『スノウ・クラッシュ』について書きたい。

ニール・スティーヴンスン 著

購入した理由

仕事帰りにプログラミング関連書籍のコーナーをぶらぶらしていると、この小説のポップが目に入ったのだった。

『メタヴァースという語を生んだ物語』

一字一句覚えていないのが歯がゆいところだが、こんな感じだった。

とにかくこの小説が元になって「メタヴァース」という言葉が生まれたらしい。

言葉が生まれた、というのはすなわち、「メタヴァース」そのものがこの小説を元に生まれたと言い換えてもいいだろう。

メタヴァースに対して、積極的な興味があるわけではないが、このポップは妙に興味をそそるものがあった。

小説とは全く関係のないコーナーで見つけたからだろうか。そこに運命じみたものを感じたのをかもしれない。

リアル書店はこういう予期せぬ出会いがあるから面白い。

物語の概要、あらすじ

まず簡単なあらすじについて。

舞台は近未来のアメリカ。グローバル化が極端に進んだ結果、あらゆるテクノロジーが国外に流出し、経済力が世界最低クラスになっているようだ。連邦政府、いわゆる国家機能はほぼ無力化しており、資本家によるフランチャイズ国家が国土を分割統治をする世界。

この国の天然資源の強みは、まるでなくなってしまった。

いわゆる"見えざる手"というやつが、あらゆる歴史的不公平を不鮮明にし、地球じゅうをパキスタンのレンガ職人が喜びそうなまっ平らな層にした。

―結局どうなったか? アメリカ人がいま世界に誇れるのは次の四つだけになってしまったのだ。

音楽

映画

マイクロコード(ソフトウェア)

高速ピザ配達

主人公のヒロ(ヒロアキ)・プロタゴニストはマフィア・フランチャイズ、ノヴァ・シチリアが経営する、高速デリバリーピザの配達人だ。同時に、メタヴァース内の会員バーブラック・サンの開発に携わった凄腕ハッカーでもある。

ある日、ヒロはメタヴァースで出会った男にスノウ・クラッシュなる謎のドラッグを手渡され、陰謀に巻き込まれていく…

読後の感想

この「スノウ・クラッシュ」において、ユーザーはラップトップとゴーグルを使用してメタヴァース空間にゴーグル・インする。その空間の中で自身のアヴァターで行動をする。ちなみに同じくサイバーパンク小説の先駆け「ニューロマンサー」では電脳世界に接続することをジャック・インと表現していた。

ゴーグルをつけてメタヴァースにログイン、、今の世界じゃん、って思う。

だが、これが1992年、つまり30年前に書かれた小説だという点に驚く。

『預言の書』と評されることも多く、巨大テック企業の創業者たちはこの小説に「霊感」を受けてプロダクトを世に生み出していったという話もあるそうな。

さて、SF小説の面白いところは、ストーリー自体の面白さに加えて、横文字の語感のかっこよさだったり、設定や周辺のギミックにあると、個人的には思っている。この小説は周辺に異常に凝っていて、そういった描写に引き込まれる。

例えば、メタヴァース内でヒロがニッポニーズ(日本人のことをこう呼んでいる)と刀で決闘をする場面がある。

その戦いのシーン自体も興奮を呼ぶものだったが、補足で挿入される説明文がディテールに富んでいる。

ヒロは<ブラック・サン>内の剣による闘いのアルゴリズムを書いたとき ——このコードはのちにメタヴァース全体で採用されるようになったのだが—— 戦闘の結果をうまく処理する方法がないということに気づいた。

アヴァターは死ぬことを考えて作られてはいない。身体を切り離されることもだ。

メタヴァースの創造者たちは、そんな要求が出るということまで予見できなかった。

戦闘シーンだけに関して言えば、まぁ仮想空間で戦うことはあるよなっていう感想。

だけど、それが「アルゴリズムを書いた」結果生まれたものであり、且つ、その後の結果の処理まで言及されている点に感動をする。

メタヴァース自体はコーディングの結果生まれている、という前提がある。

つまり、描写されるシステムも全て何等かのコーディングによって構成されている、というわけだ

それはバトル・システムのみならず、アヴァターのデザイン、乗り物に乗った時の高速移動の問題等、例を挙げればきりがない。

想像するだけでなくて、「その想像を実現するためにはこういうことが必要」というところまで描写されていて、「そうだよなぁ」、と頷く場面が多い。既にメタヴァースがあるんじゃなくて、それが開発の結果生まれている、という点に心がときめく。

現実の方はどうだろう。政府ではなく、巨大資本家が力を持つ世界。いつでも頼めて高速にデリバリーされるピザ。

メタヴァースほどではないが、こちらも今の世の中、2022年に当てはまっている部分も多いように思う。

いつか、実現されるのだろうか。考えると恐ろしい気もしてくる。