QLITRE DIALY

赤羽に住んでいなくてよかった

2023年08月06日

はじめに

もう4-5年前くらいになるだろうか、当時は横浜に住んでいたのだけど、タイトルの通り、赤羽に住んでいなくて良かった、と思ったことがあった。一つ言っておくが俺は赤羽という街はとても良い場所だと思っている。色んな路線が通ってるし、せんべろ酒場もたくさんあるし。ただ、それと赤羽に住んでいなくてよかった、と思ったことはまた別の話である。今日はその時のことを振り返りたいと思う。以下の内容は昔やっていたブログの内容を多少改変したものである。

赤羽に住んでいなくてよかった

用があってたまたま千駄木にいて、用が済んで駅に帰る途中のことだった。50代くらいと思われるおばさんが自分に話しかけてきた。どうも近くにある谷中商店街に行きたくて、そこに至る道を聞いてきたのだった。

問題なのは、自分も千駄木に初めて来たので、谷中商店街がどこにあるのか全く分からない、ということだった。

とはいえ、おばさんが俺の外見から、俺が谷中商店街の場所を知っているか知らないか判断をすることは難しいだろう。

例えば自分が海外から観光で来ました、ということが一目で分かるような外国人だったとしたら話は違ってくるとは思うが。自分は日本人で、もちろん、海外から観光してきた外国人にはみえない。そのため、俺が初めて千駄木に来たことは一目では分からない。そして、おばさんは、初めて千駄木に来た俺に道を聞いてしまったのだった。

よく分からない会話がそこには生まれた。

「ごめんなさい、お兄さん、ちょっと谷中銀座商店街ってどこにあるか教えてくれないかしら」

「あー、はいはい、谷中商店街ね、えーと、すみません、俺、千駄木に来るの今日が初めてで分からないっていうか。そもそも俺、住んでるの横浜なんで。ここまで来るのに電車の乗り換えも3回くらいしたんすよ」

なぜか、自分が横浜に住んでいることを告白してしまったのだった。よく分からない会話だった。もちろん横浜に住んでいる人でも、千駄木に詳しい人はたくさんいると思う。しかし、横浜と千駄木は属している都道府県も違うし、乗り換えも3回くらいしないといけない。よく分からない会話なりに、おばさんも納得していて、「あー、横浜か、まぁ横浜だったら谷中商店街のことは分からないわよね、乗り換えも3回あるし」というようなことを考えていたと思う。

結局はグーグルマップで調べた大体の方角を伝えることで事なきを得た。

おばさんが谷中商店街にたどり着けたかどうかは分からないが、なにしろ自分は、横浜に住んでいて、乗り換えも3回もしてきたのだから、たどり着けてなかったとしても、それはそれでしょうがないと思った。

おばさんが自分とは逆方面に向かって歩いていくのを見送る。このとき、赤羽に住んでいなくてよかったな、という思いがわいてきたのだった。

ここでは、距離が問題になっている。

仮に日暮里とか、谷中商店街に近いところに住んでいたら、おばさんを谷中商店街まで案内をしていたと思う。

「なんたって俺、日暮里に住んでるんで、この辺はまぁ言っちゃあなんだが、庭みたいなもんでさ。ちょっと案内しますよ、すぐそこなんで、ささ」

なんて具合に言いながら。場合によって場所だけでなく、商店街のおススメの店とかも教えていたかもしれない。

では、仮に赤羽に住んでいたらどうだっただろうか。赤羽は千駄木と同じ東京都に属しているが、守備範囲にあたるのかどうかは微妙だ。乗り換えも2回しないと千駄木まで来ることはできない。仮に千駄木には何回かは行ったことがあるが、谷中商店街の場所がよく分からない、という感じで考えてみよう。そこでは横浜の時よりも奇妙な会話が生まれてしまう。

「あー、ごめんなさい、千駄木に来たことは、まぁ何回かあるんですけど、谷中商店街のことはよく分からなくて。ていうか俺、赤羽に住んでるんで」

千駄木、という地点を元に考えた時に、横浜に比べて、赤羽というのはあまり距離を感じさせないのだった。おばさんは横浜の時のように、すんなりと納得ができないため、話に食いついてきてしまう。

「うーん、赤羽か、そっかぁ、赤羽かー。でも千駄木と赤羽は同じ東京都だからなぁ、谷中商店街のこと知ってて然るべきというか、まぁ然るべきとまではいかないかもしれないけれど、知っててもおかしくはないというか、あたしはそう思うんだけどねぇ」

「いや、確かに同じ東京都だけどさ、乗り換えだって2回しないと来れないんですよ」

段々と苦しくなってくる。赤羽と千駄木の距離を感じさせる為に、乗り換えをしたことを伝えてしまう。そしておばさんはこう返すのだった。

「そりゃあ確かに、赤羽だって乗り換えはあるかもしれないけどさ。だけど、あたしは埼玉県の浦和に住んでるのよ」

いや、そんなことはぜんぜん知りたくない。赤羽と浦和は高崎線だと1駅しか離れていないが、そんなことを言い出したら京浜東北線だと間に4駅あるからお前の方が千駄木に随分近いとか言われて、泥沼になりそうだ。こういう時は嘘で乗り切るしかない。急に片言になって外国人観光客のフリをするのである。

「ゴメンナサイ、ワタシハ外国人観光客デース、ナノデワカリマセ~ン」

「あんたさっき赤羽に住んでるって言ってたじゃないか」

こうなるともう逃げるしかない。

赤羽に住んでいたらと考えると恐ろしい。